白ゆき姫殺人事件

湊かなえさんの作品はいつ見ても「一番怖いのは人間」と思います。でも彼女の小説の登場人物にはそれぞれの正義があって、その正義が立場によって悪や善のどちらにもなりうるのが怖いと思うのです。

この話の被害者の三木典子は会社では誰もが認める美人。その美人が何者かによってメッタ刺しにされ焼死体で発見される。その事件を赤星(ツイ廃)という契約ディレクターが地元で取材をしているうちに同じ会社に勤める城野美姫というOLが怪しいという情報をつかむ。美姫についての報道はエスカレートし、美姫は自殺寸前まで追い込まれるが実の犯人は赤星に事件の情報を流した里沙子だったのである。
今の情勢をうまく反映させているのはさすがです。実際にはいつ起こってもおかしくない話だと思います。たしかに美姫の行動はおかしなところがあって、それが運悪く事件と重なっていた為に疑われる結果となったのです。でも真犯人だった里沙子がそれを利用した可能性はあるのかなと。もともと美姫の色々な想いを知っていて、チケットの件も里沙子が提案したわけだし。自分が事件を起こしておいて、平然と赤星に情報提供するのだからたいしたものだと思うのですが、現実にもそういう人いますしね。むしろ赤星をつかってミスリードしようとしたというのが正しいかも。
ここで重要なのは美姫は警察から指名手配をされていたわけじゃないということだと思います。あくまで周囲の証言から美姫の行動が怪しいとなっただけ。それだけで美姫を容疑者扱いした赤星の取材は許されるものではない。地元への取材も「美姫が殺人をするような人間」である事を印象づける証言しか使ってない。そしてその証言も全部本当の事ではなかった。そこがまた怖いとこで、殺人事件の容疑者と疑われている人物の学生時代の話を聞かれた時に「殺人を犯したかもしれない」という話を前提に思い出す話が真実とはズレてしまったりとか。あとこの話にリアリティがあるのは、美姫の地元が地方という点ですね。人間関係が学生の頃のままだから、美姫と夕子が起こしてしまった火事の事も夕子が今も引きこもりであることも地元の人は知っている。だからどうしたって昔のエピソードと結びつけて話てしまうのだろうな。でも証言している本人達にそんなに悪意はなくて、同窓会で昔のエピソードを話して盛り上がる程度に思っていたんだろうなと。特に大学時代の親友のみのりはうっかりツイッターで美姫の個人情報バラしちゃっていたけど、あれも悪意を持ってやったとは思えなかったし。でも結果的に美姫にとっては悪い方向へ行っちゃったわけですが。
湊さんの作品は学生時代が事件のきっかけになっている作品が多いけど、忘れかけている学生時代の人間関係の難しさを思い出すので見ていてその点はキツイ。あとツイッター上の無責任な正義感ってタチ悪い。最後のシーンで赤星と美姫が出会ったけど、赤星は彼女が美姫だった事は分からなかったんだろうか。美姫は知らないだろうけど。あれだけ色々取材しても美姫の顔が分からなかったのは皮肉なんでしょう。